「アイドル引退!?」 by文鎮あるじ

犬神「ねえ、あるじ…」
あるじ「ん?どうしたんだ犬神。いつになく真剣な表情じゃないか」
犬神「もうっ!失礼しちゃうわねっ。わたしはいつでも真剣そのものですぅ!」
あるじ「ははっ、ごめんごめん。で、用件は何なんだ?神社にまで呼び出して…もしかして告白か?」
犬神「……」
数秒の沈黙。
犬神は伏し目がちに小さく頷く。
犬神「そうなのよ…。今日はあるじに告白したいことがあってここに呼んだのよ…」
あるじ「―えっ?」
犬神「実は、わたし次のライブで妖怪アイドルを引退しようと思うの」
あるじ「どうしたんだ急に?引退なんてらしくないじゃないか、何か悩み事でもあるのか?」
犬神「それがね―」

一週間ほど前のことだ。
犬神が散歩をしていて、偶々音楽円盤屋の前を通った時の町人の会話が聞こえたそうだ。
「最近、犬神ってアイドルの円盤よく見かけるよな。一つ買ってみるかな」
「止めとけ止めとけ。見た目は雷獣ちゃんと同じくらい可愛いんだけどな、歌が酷いんだよな」
「マジかよっ!やっぱ買うの止めておくよ…」
ということがあったらしい。

確かに犬神の歌声は個性的だが
あるじ「でも、だからって引退まですることは無いんじゃないのか?」
いつもの犬神なら文句の一つも良いそうなものだが、何となく大人しい気がする…。
犬神「…でもね、引退するってことは秘密にしておきたいの、良いでしょ?」
あるじ「まあ、それ自体は構わないが…」
本気で引退する気なのか、とは聞けなかった。それほどの決意と覚悟に満ちた目をしていたからだ。
犬神「せめて、会場の準備くらいは俺にも手伝わせてくれないか?」
犬神「…お願いするわ。よろしくね、あるじ」
あるじ「ああ、きっと最高の会場にするよ!」

あるじ「と言う訳なんだが…。俺は音響には詳しくなくてな、うわん手伝ってくれないか?」
うわん「いいよっ、ボクもあるじに協力しようじゃないか!」
あるじ「助かるよ、うわん。恩に着るよ」

 利器土「妖力ヲ感知!
 征討セヨ!
 征討セヨ!」

あるじ「今はお前たちの相手をしてる暇はないんだよっ!」

(利器土と戦闘)

うわん「ここをこうして…。こっちも同じように…。」
あるじ「うおぉ…!流石の手際だな、やっぱり慣れているんだな、うわんは」
うわん「まあね、ボクって結構スゴいでしょ?」
音響のみならず会場そのものの準備も丁寧かつ迅速。うわんに協力を仰いだのは正解だったな。
うわん「犬神ちゃんの歌声は個性的だけどボクは結構好きだからねっ」
うわん「本当は引退なんてしてほしくはないんだけど…」
あるじ「それは俺も同じ気持ちど…。よしっ、あと少しだ頑張ってしあげるぞ!」
うわん「うんっ!」

ライブ当日
舞台の裏から会場を見た瞬間に犬神が驚いたような素振りを見せたが
犬神「あるじ、うわん手伝ってくれてありがとねっ。わたし絶対最高のライブをしてくるわっ!」
というと弾けるような笑顔を見せながら、ゆっくりと壇上に上っていく。
犬神「~♪~~♪♪」
結局、歌自体はそこまで上達はしていなかった。
しかし、犬神自身が精一杯歌っているのは顔を見るまでもなく伝わってくる。

「犬神ちゃんの歌声って個性的だけど聞いてるとクセになるな~」
「はあっ!?お前この前まで悪口言ってただろうがっ、それに今回だって冷やかしに…」
「前は前、今は今だろっ!俺、円盤買いに行くぞ、俺は!」

犬神「会場に来てくれたみーんなっ!ここでわたしからの大切な発表があるのっ!わたし、犬神は…」
犬神「これからもナンバーワンアイドルとして頑張っていくから応援よろしくね~っ!」

あるじ「なあ、犬神…、引退しなくてよかったのか?」
犬神「良いのよっ。もうあいつらを見返してやったから」
あるじ「あいつらって…?」
そこまで言って俺は思い出す。
あるじ「なるほどなっ。これからもアイドルを続けてくれるなら俺としても喜ばしい限りだな」
犬神「あるじもわたしのことを応援しなさいよねっ。それに…」
(それにわたしはいつか、あるじのナンバーワンになるんだからっ)
あるじ「それに…どうしたんだよ?」
犬神「な…なんでもないわよっ!これからも一緒に居させてあげるんだから感謝しなさいよねっ!」