「想いを込めて」 by陸斗あるじ

ある日あるじが外出から帰宅すると、犬神とうまおにが何やら揉めている。
事情を訊くと、なんと犬神にお見合い話がやって来たのだ。
聞けば、犬神宗家が古くから懇意にしている有力な分家筋の御曹司を、犬神の婿養子とする話が持ち上がったとのこと。
そこでうまおにが犬神を迎えにやってきたのだが、犬神はお見合いなんてしないと拒んでいるのだ。

うまおに「もしお断りすれば、お父様、ひいては犬神宗家の体面を汚すことになりかねません」
あるじ「犬神、どうしてそこまでお見合いを嫌がるんだ?」
犬神「そ、それは……ま、まだアイドル続けたいし!」
うまおに「結婚されてもご活躍の方はいらっしゃいます。お相手は素敵な方ですよ」
あるじ「犬神、とりあえず会ってみたらどうだ?」
犬神「!!……わ、わかったわよ。あるじのバカ!!」

かくしてお見合いをすることになった犬神。だが、宗家令嬢としての女子力が足りないと猫又や河童に指摘され、渋々花嫁修業をすることに。
平安時代の貴族の姫に求められた素養である「手習い(書道)」「琴」「歌(和歌)」。この3つを磨くため、まずは手習いの特訓で文車妖妃の元へ。

文車妖妃「甘いです!もっと妄想を滾らせるのです!さあ!」
文車妖妃「犬神さんは誰に、どんなシチュで攻められたいんですか!?」
犬神「わ、私は…………って、なんの特訓よーーーーーっ!」

次に琴を習いに琴古主の元へ。

琴古主「演奏に最も必要なのは、テクニックじゃないぜ。ソウルを迸らせるんだよ!」
琴古主「犬神、もっと激しく!熱くなろうぜ!」
犬神「こ、これも何か違う気がする…」

ともあれ2つの特訓を終えた犬神。
残る歌は犬神の十八番。
特訓の必要はないと犬神は告げるが、うまおには「最高の歌をつくってみなさい」と言う。
そこで犬神は一昼夜かけ作詞作曲し、皆に聞かせる。
猫又たちの評判は上々だが、うまおには「本当の気持ちが込められていない」と切り捨てる。

犬神「本当の気持ちなんて…言えるわけないじゃない」

そうこうするうちに実家に出発する前夜となり、皆で宴会をすることになった。
猫又や河童は、結婚を前提にからかったり冷やかしたりするが、あるじは複雑な気持ちだった。
すっかり出来上がった猫又たちを残し、縁側で物思いにふけるあるじ。
そこへ、犬神が現れる。そして、あるじに歌を聴いてほしいという。

犬神「♪初めて出会ったときは、こんな気持ちになるなんて想像してなかった」
犬神「♪友達を応援する振りで、素直になれなかった」
犬神「♪勇気のない私だけど、これだけは本当なの。あなたが、好き……」

その歌はあるじの心を強く揺さぶる。今までで一番良かったと絶賛するあるじ。

犬神「当然でしょ、誰かひとりのために歌うなんて、なかったんだから!」
犬神「これからだって………ないんだから。……感謝しなさい!」

かくして、たったひとりのためのコンサートは、幕を閉じた。
さて、実家へ戻ってきた犬神。
「やっぱりきちんと断ろう」と心に決めて相手の待つ部屋に入ると、なんとそこには、5、6歳の子供が。驚く犬神。
実はお見合いというのは嘘で、犬神の熱烈なファンである分家筋のお子様が会いに来る、というだけだったのだ。
憤慨してうまおにを問い詰める犬神。

うまおに「お嬢様に本当の気持ちを見つめてほしかったのです」

あるじとの仲が一向に進展しない犬神のために、荒療治を施したというのだ。怒り、呆れ、そして微笑む犬神。

犬神「あなたに心配されなくたって大丈夫よ」

犬神「いつか、振り向かせてあげるんだから…待ってなさいよ、あるじ!」